酒造り
自然―山紫水明な飛騨高山
飛騨高山は、東に乗鞍岳をはじめとする北アルプスの山々、南に木曽御岳、西は白山連峰の囲まれた飛騨盆地の中心、海抜570メートルの位置にあります。町を流れる宮川は、日本海へと流れ、日本海式気候を呈する、国内有数の高地です。
4月下旬頃、遅い春の訪れに梅・桃・桜が一斉に開花します。夏は盆地特有で、日中は急激に気温が上昇しますが、朝夕は夏を疑う程の涼しさです。10月ともなれば、北アルプス一帯に降雪があり、いよいよ酒造りの季節となります。冬は高地特有の厳しい冷え込みとなって、酒造りは最盛期を迎えます。
北アルプスに降り積もった雪が伏流水となり、田畑を潤し、酒造りに適した米を養い、湧き出した清水が水となり銘酒「久寿玉」を醸し出します 。
酒米―飛騨の良質な米を使用
飛騨地方には、酒造りに必要な自然の恵みが見事に揃っています。まずは米。
酒造りに適している米は、私たちが主食にしている品種ではなく、酒造好適米と呼ばれるものです。『酒米は大粒心白を以て最上となす』言われるように、米粒が大型で、中心にある白色の部分にあたる心白が大きいのが特徴です。
飛騨地方では、岐阜県が生み出した“ひだほまれ”という優良な酒造好適米が栽培されています。ひだほまれは、手間がかかる上に限られた量しか収穫できない、農家泣かせの米です。
しかし、『地元の良質な米で、飛騨ならではの旨い酒を生み出したい』という一心で、農家と蔵元が一丸となり、日夜情熱を傾けているのです。
飛騨の水―乗鞍の麓、清らかな美味しい水
酒造りにおいて、重要な原材料となる水。
製造過程においても欠かすことができないもので、膨大な量を必要とし、その質は酒の味を左右する大きな要因となります。特に雑菌や鉄分、マンガンが含まれた水は、酒質を劣化させる原因となります。
久寿玉の仕込み水は宮川の上流、位山、川上(カオレ)岳に降った雨が麓で地下に潜って(水無川)ろ過された伏流水を使用しています。非常に不純物が少なく硬度が10.0ppm(アメリカ硬度)しかない超軟水です。昔はその地まで水を汲みに行っていましたが、昭和29年(1954年)に高山市の水道事業が水無川を取水地としたため、高山市内にこの水が供給されるようになりました。良質な水をふんだんに使用出来る環境が、久寿玉の酒造りを支えています。
酒造りは人と技
良い米、良い水、優れた技術、恵まれた風土が揃っていても、まだ真の日本酒の出来る充分な条件であるとは言えません。
もう一つが『心』。時代や環境に曲げられる事のない真っ直ぐな蔵元の心の存在が不可欠です。日本酒業界にも、これまで様々な技術革新や変革がありました。そういった時代の流れの中で、たとえ製造方法や技術は変わっても、代々受け継がれた酒造りの精神、真っ直ぐな心だけは不変である、という事です。
これこそが日本酒の個性を生み出す要素であり、真の伝統であると言えるでしょう。